21st
Tyler Cowenの新著はKindle電子ブック版のみの、いわゆる19世紀、20世紀初頭の経済学者が出していたような政策提言「パンフレット」形式。
今これを読まないで何を読むの、というくらいの最重要のエッセイだと思う。”Low-Hanging Fruit”という分かりやすい隠喩表現で、手に入りやすいアイディアやリソースでイノベーションを行なうことで豊かさを享受してきた時代はもう終わって、これからアメリカを中心とする先進国は豊かさについて停滞の時代に入るのではないか、と指摘する。インターネットもある程度は個人の関係を作り替えるが、鉄道や自動車や飛行機や無線やテレビやコンピュータが出てきたレベルのような劇的なイノベーションにはならないだろう、とする。中国がいま発展しているのは、米国や先進国が作ってきた”Low-Hanging Fruit”をせっせと取り込んでいるからだ、とも指摘する。なるほど。
経済学ではその国や地域の豊かさの度合いをみるのにGDPの推移を使うけれど、Cowenはメディアン家計の収入推移をみて消費の推移を代表させ、ここ数十年に渡って収入の格差が拡がるとともに、平均的には豊かな時代が終わっているのではないかとしているところも納得感がある。
現在世界一のコラムニスト・エッセイストと言っていいTyler Cowenが書くエッセイだから、それだけでも読む価値はあるのだが、これはこれから5年か10年の世界や自分の状況を考えていくためにはマストの書籍だと思う。NewYorkerのエッセイの二回分という短さもすぐに読み終えることができて良い。
この本は同時に、まさに電子書籍はこう使うのだ、という手本のような本でもある。根拠のある論理的で明快な主張を短く安く提供する。通常の紙の本なら余計なエピソードを詰め込んで300ページくらいに膨らませないと出版ができないけれど、これなら核心部分だけを出版できる。
Cowenの主張に反対か賛成かに関わらず、この本を読んでないのにこれからの社会はこうなる系の発言をする人は夜郎自大であるとみなしていいほどの、現時点での時事的な教養書だと思う。